事業計画書
事業計画書は個人事業主に必要?最低限の項目と日本政策金融公庫の書き方
「個人事業主でも事業計画書は本当に必要なのか」——開業を考え始めた方や、すでに個人事業主として動き出している方から、この質問をよく受けます。結論から言うと、日本政策金融公庫などの創業融資を受けるなら、事業計画書は実質必須です。一方、自己資金だけで小さく始める場合は法律上の義務ではありません。ただしその場合でも、作った方がいい理由があります。本記事では、300社以上の新規事業支援に携わってきたONE SWORD(ワンソード株式会社)が、個人事業主だからこそ発生する事業計画書の論点——法人向けとの項目の違い、日本政策金融公庫「創業計画書」の書式、個人事業主特有の注意点——に絞って解説します。

個人事業主に事業計画書は必要か(結論を先に)
融資を受けて開業・運営するなら、事業計画書は事実上の必須書類です。日本政策金融公庫の創業融資をはじめ、信用金庫・地方銀行の創業支援融資でも、審査の土台として事業計画書(または公庫の場合は「創業計画書」という専用書式)の提出が求められます。
一方、自己資金の範囲だけで開業し、当面は融資を考えていない場合、事業計画書の作成は義務ではありません。開業届(税務署に提出する「個人事業の開業・廃業等届出書」)自体にも、事業計画書の添付は求められていません。開業届は「事業を始めた事実の届出」であり、事業の中身を審査するものではないためです。
とはいえ、ONE SWORDでは自己資金開業のケースでも事業計画書の作成をおすすめしています。理由は主に3つです。
- 思考の抜け漏れに自分で気づける: 頭の中では成立しているつもりの事業でも、紙に書き出すと「誰から」「いくらで」の部分が曖昧なまま進めていたことに気づくケースが、現場でよく見られます。
- 家族・取引先への説明力が上がる: 個人事業主は法人のような肩書や組織の後ろ盾がない分、事業の中身を自分の言葉で説明する場面が多くなります。
- あとから融資を検討する余地を残せる: 開業当初は自己資金のみでも、事業拡大のタイミングで融資を検討する個人事業主は少なくありません。その時点で慌てて作るより、開業時点の計画を土台に更新していく方がスムーズです。
個人事業主の事業計画書に最低限必要な項目
事業計画書に含めるべき項目は、法人・個人事業主を問わず基本の考え方は共通しています。ONE SWORDが標準化している法人向けの12項目については、事業計画書のテンプレートと書き方で記入例つきで詳しく解説していますが、個人事業主の場合、株主構成・役員体制・部門編成といった「組織」を前提にした項目はそもそも存在しないため、その分シンプルに書くことができます。
法人向け12項目から、個人事業主にほぼ不要な項目を除いて整理すると、実質8項目になります。
| # | 項目 | 個人事業主における書き方の要点 |
|---|---|---|
| 1 | 事業概要 | 誰に・何を・どう届けるかを3〜4行で要約する |
| 2 | 経営者プロフィール | 経歴・実績・「なぜ自分がやるのか」を中心に書く |
| 3 | 解決する課題・提供する商品/サービス | 顧客の困りごとと、それをどう解決するかを具体的に |
| 4 | ターゲット顧客 | 最初に取引する顧客像を具体的にイメージできる粒度で |
| 5 | 市場・競合の状況(簡易版) | 商圏や取引先候補の規模感、直接の競合・代替手段を整理 |
| 6 | 収益の仕組み | 誰から・いくらで・どのタイミングで対価を得るか |
| 7 | 集客・販売の道筋 | 最初の顧客をどこで・どうやって見つけるか |
| 8 | 資金計画・数値計画 | 開業資金の内訳と、開業後の月次収支の見込み |
法人向け12項目のうち、次の3点は個人事業主向けでは基本的に統合・簡略化して差し支えありません。
- 事業のビジョン・ミッション: 「10年後にどんな世界を作るか」という抽象度の高い項目は、投資家向けピッチや大規模事業でこそ重視されるものです。個人事業主の計画書では、項目1(事業概要)の中で一言触れる程度で十分です。
- 実行体制・組織: 役員・部門構成を問う項目ですが、代表者一人、多くて数名で運営する個人事業主にはそのまま当てはまりません。「誰が何を担うか」という要素自体は必要なので、項目2(経営者プロフィール)に統合します。
- 市場規模(TAM/SAM/SOM)の3層分解: 全体市場から自社の取り分まで段階的に絞り込む考え方は有効ですが、個人事業主の商圏はそもそも限定的なケースが多いため、簡易版で済ませて構いません。
なお、融資・補助金・社内承認・VC向けなど、用途別に踏み込んだ書き方や記入例まで確認したい方は、事業計画書のテンプレートと書き方を参照してください。
日本政策金融公庫「創業計画書」の書式に沿った書き方のポイント
日本政策金融公庫は、個人事業主を含む創業者向けに「創業計画書」という専用の書式を用意しています。融資審査では、汎用テンプレートではなくこの公式書式が正本として扱われます。一般的に知られている範囲で構成要素を紹介すると、おおむね次のような項目で構成されています(最新の様式・記入要領は必ず公庫の公式情報でご確認ください)。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等(職歴・取得資格・過去の事業経験)
- 取扱商品・サービス(商品/サービス内容、セールスポイント、販売ターゲット、競合・市場の状況)
- 取引先・取引関係等(販売先、仕入先、外注先とそれぞれの割合・回収/支払条件)
- 従業員(雇用予定の人数)
- お借入の状況
- 必要な資金と調達方法(設備資金・運転資金の内訳、自己資金、借入予定額)
- 事業の見通し(創業当初と軌道に乗った後の売上・経費・利益の月平均)
見ての通り、この8項目は前章で整理した個人事業主向けの実質8項目とほぼ1対1で対応する設計になっています。したがって、先に本記事の8項目で思考整理をしてから、公庫の書式に転記するという順番が効率的です。公庫の書式は各記入欄がコンパクトなため、いきなりその欄を埋めようとすると、考えがまとまらないまま書き始めて手が止まる、という状態に陥りやすくなります。
特に個人事業主で見落とされがちなのが「創業の動機」です。法人の事業計画書では埋もれがちな項目ですが、個人事業主の創業計画書では、代表者一人の経験や思いがそのまま計画全体の説得力に直結します。「なぜ今、なぜこの事業を、なぜ自分がやるのか」を具体的なエピソードとともに書くことを意識してください。
先に自分の事業の全体像を1枚で整理してから、公庫の書式や詳しい計画書に落とし込みたい方は、事業計画書は1枚でいいもあわせて参考にしてください。
ここまでの項目・書式を一度に埋めようとすると、情報量に圧倒されてしまう方も少なくありません。個人事業主の場合、いきなり公庫の書式や詳細な計画書に取りかかるより、まず自分の事業の全体像を1枚で整理してから、詳しい計画書に進む方がスムーズです。ONE SWORDでは、事業計画書とマーケティング戦略、どちらの骨子も1枚で整理できる「マーケティング戦略全体像シート」を無料で配布しています。
個人事業主特有の注意点
自己資金と融資希望額のバランス
自己資金がほとんどない状態での融資申請は、返済能力への不安を審査側に与えやすくなります。一般的に、自己資金の割合が高いほど審査上プラスに働くとされていますが、創業融資に関する自己資金要件や優遇制度は見直されることがあるため、最新の条件は必ず日本政策金融公庫の公式情報で確認してください。「自己資金がいくらあるか」だけでなく「その資金をどう貯めてきたか」を説明できる状態にしておくと、審査側の印象は変わります。
事業費と生活費を分ける
個人事業主は法人と違い、事業用口座と生活費の口座を分けずに運営してしまうケースが少なくありません。売上が入る口座から生活費も出ていく状態が続くと、事業単体の収支が見えにくくなり、計画書の数値計画自体の信頼性も下がります。事業用の口座・クレジットカードを分け、生活費への支出は会計上「事業主貸」として区別することを、計画書作成の前段階でおすすめしています。
小規模だからこそ「なぜ自分がやるのか」が問われる
一般論としては、事業計画書は数値計画の精度が最重要とされがちです。もちろん数値の妥当性は欠かせません。ただ、ONE SWORDが個人事業主の事業計画づくりを見てきた実感では、規模が小さいほど、審査側は数字そのものより「この人が本当にやり切れるか」という経験の裏付けを重視する傾向があります。法人であれば、実績のない新規事業でも組織・資本・既存事業とのシナジーが信用を補ってくれますが、個人事業主にはその後ろ盾がありません。代表者個人の経歴・実績・顧客との接点が、そのまま計画の信用力になります。
業種別の書き方の重点差:無店舗系サービス業 vs 店舗系
個人事業主といっても業種はさまざまで、事業計画書の中で力を入れるべきポイントは業種によって変わります。
無店舗系サービス業(コンサルティング・デザイン・ライティング・士業等)は、初期投資が小さく、資金計画の分量自体は薄くなりがちです。その代わり、「なぜこの人に依頼したくなるのか」——資格・実績・紹介経路・過去の成果——を項目2(経営者プロフィール)と項目7(集客・販売の道筋)で厚く書き込むことが重要です。稼働率×単価×受注件数という、労働時間に紐づく数値計画の現実性も忘れずに確認してください。
店舗系(飲食店・美容室・整体院等)は、内装・設備・保証金といった初期投資が大きくなるため、項目8(資金計画・数値計画)が計画書全体の要になります。立地・商圏人口・客単価×回転率による月商シミュレーション、家賃や人件費といった固定費の比率など、店舗特有の数値を具体的に積み上げてください。開業から損益分岐点に達するまでの期間を保守的に見積もっておくことも、店舗系では特に重要です。
よくある質問
Q1:個人事業主が事業計画書を作らないとどうなりますか?
自己資金のみで開業する場合、事業計画書がなくても開業自体は可能です。ただし、経営判断の軸がないまま事業を進めることになり、支出や集客の優先順位がその場しのぎになりやすくなります。また、後から融資を検討する際に一から作成する手間が発生するため、開業初期に簡易版でも作っておくことをおすすめします。
Q2:開業届を出すときに事業計画書は必要ですか?
必要ありません。開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は税務署への届出書類であり、事業の中身を審査するものではないため、事業計画書の添付や提出は求められません。事業計画書が必要になるのは、主に金融機関から融資を受ける場面です。
Q3:日本政策金融公庫の創業計画書は、通常の事業計画書テンプレートと同じものですか?
異なります。創業計画書は日本政策金融公庫が独自に定めた専用の書式で、融資審査ではこちらが正本として扱われます。市販や無料配布の汎用テンプレートは、公庫の書式に書き込む前の思考整理として活用し、最終的には公庫の公式書式に転記する使い方が実務的です。
Q4:個人事業主の事業計画書は、どのくらいのボリュームで書けばいいですか?
法人向けほどの分量は必要ありません。本記事で紹介した実質8項目が過不足なく書かれていれば、A4数枚程度でも十分に機能します。ページ数を増やすことよりも、各項目に「誰が読んでも同じ理解に至る」具体性があるかどうかを優先してください。
まとめ
- 融資を受けるなら事業計画書は実質必須、自己資金開業なら任意だが、思考整理のために作る価値があります。
- 開業届自体には事業計画書は不要です。必要になるのは主に融資審査の場面です。
- 法人向け12項目のうち、ビジョン・ミッション、実行体制・組織、TAM/SAM/SOMの3層分解は簡略化・統合し、個人事業主には実質8項目で整理できます。
- 日本政策金融公庫の創業計画書は、この8項目とほぼ1対1で対応する構成になっており、先に思考整理をしてから転記する順番が効率的です。
- 個人事業主特有の注意点として、自己資金と融資希望額のバランス・事業費と生活費の分離・「なぜ自分がやるのか」の説得力の3点を意識してください。
- 無店舗系サービス業は経営者プロフィールと集客の道筋を、店舗系は資金計画と数値シミュレーションを厚く書き込みましょう。
個人事業主の事業計画書は、法人向けほどの分量は必要ありません。むしろ、項目を絞り込んで「なぜ自分がこの事業をやるのか」を具体的に語れる計画書の方が、審査側にも取引先にも伝わりやすくなります。ONE SWORDの新規事業立ち上げキットでは、事業計画書の骨子を含む5種の穴埋めテンプレートと解説動画、専門家によるフィードバックまでを一体で提供しています。まずは全体像を1枚で整理するところから始めたい方は、下記からマーケティング戦略全体像シートを受け取ってください。